Excelのショートカットキーを覚えられる人、覚えられない人

以下、一般論ではなく自分の同僚や後輩たちに見られる傾向のみを書くのであって、過度に一般化する意図はない。

 

結論から先に言うと、ショートカットキーを覚えられる人はタッチタイプができて、ショートカットキーを覚えられない人はタッチタイプが出来ない人、だった。

 

 私も普段パソコン仕事をしているのですが、キーボードを打つのは遅いし、特にExcelを使うのが苦手で、他の人より仕事が遅いという悩みがありました。

 

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 この文章を読んで、真っ先に、ショートカットキーよりも先にタイピングが遅い=タッチタイプできないことを改善しろよ…と思ったのは自分だけではないと信じたい。

 

ここでタッチタイプを割算に、Excel作業を方程式に例えてみる。

 例 方程式 –3x = 12 の解き方。
この–3はxにかけてあるので逆数をかける

(-1/3) * (-3x) = 12 * (-1/3)

両辺それぞれ約分して計算する

x = 4

 

方程式の解き方 等式の性質

割算を暗算で出来る人は、12 / 3 = 4をいちいち意識して計算しない。12 / 3という文字列を見れば、瞬時に4が出てくる。その間に思考プロセスはない。では、割算ができない小学生がこの方程式を解こうとすると、どうなるのか? 恐らく、鉛筆12本と大きな紙を用意して、その紙に大きいマルを3つ書き、そのマルの中に鉛筆を順番に1本1本入れて、4本ずつになるのを目視で確認しながら12 / 3を行うだろう。「割算 教え方」でググると、小学生にどうやったら割算を教えられるのか、親や先生の苦労の跡が伺える。*1

 

ショートカットキーやタッチタイプをやる目的と九九をやる目的は同じだ。キーボード操作を無意識化するために行う。キーボードをいちいち意識しながら打っている人間に「ショートカットキー便利だよ」と言っても、作業が早くなった実感を得られる確率は非常に低いのだ。タッチタイプ出来ない人がショートカットキーが便利であることを知覚するためには、タッチタイプ出来ない人が行うマウス操作よりもショートカットキー操作の方が早くなければならない。また、キー操作を意識していたのに加えてショートカットキーを意識しなければならないのだ。人間のワーキングメモリは有限だ。「Excelで行おうとしていたビジネスロジック+キー操作+ショートカットキー」を全部意識するのは大変だ。これがマウス操作だと、ビジネスロジック以外意識する必要はない。そういう人が「ショートカットキーは便利だ」とはなかなか知覚できないし、マウス操作の方が自分には合っている、とすら感じるだろう。

 

一方、タッチタイプ出来る人はキー操作を無意識に行える。連立方程式を解く際に、12 / 3 = 4を見た瞬間に、なにも考えず、全く意識することなくキー操作を行える。この人に「ショートカットキーは便利だよ」と教えると、ショートカットキーは操作を無意識化してくれるもの、と知覚できる。これが大きい。この人は最初は「ビジネスロジック+ショートカットキー操作」を意識するだろうが、やがてショートカットキーが手に馴染むと、そのExcel操作は無意識化される。結果として、「ビジネスロジック」以外意識しなくなるわけだ。12 / 3 = 4が瞬時に行えるのと同じように、直前の行と同じ値を入力するんだなーと思った瞬間に、手が勝手にCtrl + Dを押すようになる。やがて、慣れた道を行くドライバーが、いつもの交差点で全く何も考えず、無意識にウインカーを出し、ブレーキを踏み、目視確認してハンドルを切るように、Excel操作も無意識に出来ることが増えるようになるだろう。よくタッチタイプ出来ない人から誤解されるが、タッチタイプできる最大のメリットは、単にキー操作が早くなることではない。脳が意識することを減らすことに最大のメリットがある。キー操作が早くなることは、脳が無意識になった結果起こった事象にすぎない。

なお、私はショートカットキーを1日に1~2個だけ覚えて、2ヶ月で30~40個ショートカット覚えることができた。一度に何個も覚えようとすると意識することが増えて挫折したので、新しいショートカットキーを覚えるときは、以前覚えたショートカットキーを完全に無意識に打てるようになってから次のショートカットキーに進むようにした。40個ショートカットキーを覚えると、以前よりも相当早くなったと感じる。一度に全部覚える必要などないのだ。

 

タッチタイプを習得するためには、地道な練習しかない。小学生が百ます計算やドリルで反復練習で九九を覚えたのと同じように、正しい型を習得して、反復練習するしかないのだ。情報系の大学や専門学校、高専卒の友人や先輩・後輩に話を聞くと、大抵は1年生の一番最初に、タイピングソフトを一コマかけて延々やる授業があるそうだ。彼らはずっと情報系の授業をやるより、最初にタッチタイプをやったほうが圧倒的に学習効率が上がることを知っているのだろう。というか、12 / 3 = 4をいちいち意識しながらでないと解けない小学生に、誰も方程式を教えようとは思わない。まずは九九ができるようになってから、と思うのが筋だ。情報も同じで、まずはタッチタイプ、話はそれからだと考える。算数や数学において九九が基本であるように、PC操作はタッチタイプが全ての操作の基本だ。これが出来ないと先へ進むのが非常に難しい。

 

タッチタイプは習得率も非常に高い。これも先程の情報系学科卒業生に聞いたが、他の科目で赤点を取ることはあっても、タッチタイプで赤点をとった人は同級生には誰もいなかったそうだ。サンプル数が少なくて恐縮だが、私の知る限りは15歳や18歳の少年少女200人程度は、数ヵ月練習すれば全員タッチタイプを習得できたことになる。タッチタイプは頭のいい人が突然できるようになるスキルではない。誰でも一定期間の練習量は必要だが、一定期間練習すれば習得できるようになる確率が非常に高いスキルだ。野球のピッチャーで150kmストレートを投げることは、どんなに練習しても出来ない人の方が多いが、タッチタイプであれば、練習すればできるようになる人の方が圧倒的に多い。それは九九の暗算と同じだ。だからこそ、九九を学校で教えているのだ。

 

 

今の日本のホワイトカラーは、九九ができない小学生に方程式を教えようとして「なんでできないんだ」と言ったり、自分が九九ができないことすら自覚していないのに「方程式は難しい。こんなのやらなくて良い。足し算と引き算だけで十分じゃないか」と言ったりしている。これを滑稽と言わずして何というのだろうか。

*1:わり算(割り算)の教え方は水道方式でわかりやすく!など。このページを見ると、割算を瞬時にできないとはどういうことかを思い出させてくれる。間違ってもこの子達に方程式を教えたいとは思わないだろう